3年目を迎えたまちしごとファクトリー2017、今年のキックオフセミナーは岡山・西粟倉村から㈱エーゼロの牧さんをメインゲストに迎え、さらに県内でのまちしごとを実践している神山町フードハブ・プロジェクトの真鍋太一さん、白桃薫さん、さらにこのプロジェクト創設時から関わって頂いている三好市の㈱オウライの西崎健人さんを加えたパネルディスカッション、という形で行いました。
まずは、牧さんによる基調講演。西粟倉と言えば、岡山県と鳥取県の県境域といういわば「秘境」とも言えそうな地域で様々な取り組みを通じて全国的に知られています。その発信源とも言えるのが牧大介さん。もともとコンサルタントとして日本全国を回る中で、実際にやってみようという感覚が芽生えたという。さらに全国をまわる中で地域それぞれの個性のようなものも見えてくる。西粟倉は場所こそ“奥地”ではあるが、街道が通っていたりすることから農山村の中では比較的開けた地域という印象だったという。そこでのビジネスはまずはエコツーリズムから。小さな取り組みの経験を通じてノウハウを蓄積しながら現在の多角的な取り組み、さらには多くの雇用を生み出している。講演の中には驚くような言葉も飛び出した。「『合意形成』『地域資源』『地域のために』は気にするな」という一言。私などはいつも「地域のために」ということを至上命題の様に捉えているが、真逆の言葉が牧さんの口から発せられた時、正直「むむっ!」と思ってしまった。(後から振り返るとこれはものの言いよう。後の議論で真相が語られます)
一方で、「世界の神山」で新たに始動したフードハブ・プロジェクト。移住者であり、東京で活躍するバリバリの広告プランナーの真鍋さんと、生粋の神山っ子である元役場職員の白桃さん。この2人の絶妙なコンビネーションにも感銘を受けました。特に白桃さん。総合戦略の策定関わる中で「ただの職員」だった白桃さんのハートに火がつき、「役場を辞めてでもやりたい」と宣言したという。役場職員が変われば地域も変わる。自治体の計画にこんな人間教育力があるとは思いもよらず、ただ驚くばかりでした。
最後の西崎健人さん。東京の仕事に疑問を感じたことからフラッとやってきた三好市。そこで、地域の人達とのコミュニケーション(言ってしまえば飲み話)の中からビジネスチャンスを見出すスキルには圧巻ですが、これぞ「まちしごと」といえます。自分のビジネスモデルを地域に持ち込むのではなく、地域の中の需要を発見してスモールビジネスに通じる模範的な取り組みでしょう。そして今年から祖谷・落合集落で活動する稲盛さんとタッグを組んで新しい段階に進んでいる様子もご紹介頂きました。
三者三様、それぞれの「まちしごと」の形は違えど、どれも一見地域では難しそうに見えるようなビジネスを地域を巻き込みながらやっておられる。また特徴的だなぁと思ったこととしてそれぞれの活動が役場との連携をとっている、ということ。真鍋さんの「役場の力は大きい」という発言は印象的で、役場と連携することで地域との関係づくりもしやすくなる反面、役場職員の資質にも左右される。結果として役場にもクリエイティブな発想が求められていることがわかりました。それは結構難しいことなんじゃないか?という気もするのですが、そんなことはない。白桃さんが「役場には(自分のように)変わる可能性のある若手はきっといる」と言い切ってくれたことには大いに勇気づけられました。
最後に、私から一つの質問を投げかけた。「企業ってやっぱりリスクの心配がつきまとうが、どうやってそれを超えているのか?」答えは簡単。「企業」という言葉を使うと非常に大事だと思ってしまうが、「プロジェクト」の積み重ねだと思えば気が楽になるという。なるほど。私たちはいつの間にかに言葉の力にも負けていたのか、ということに気付かされた瞬間でした。さらには最初の牧さんの「合意形成、地域資源、地域のために、は気にするな宣言」も、真意がわかってきました。あまり「地域のため」って強くいっても簡単には「地域のため」にはならない。「地域のため」って直接的なものではなくて、巡り巡って結果的に「地域のため」になるもの。更には地域からしても「あなたのため」って言われても「大きなお世話だ!」ってなるわけだ、ということがわかりました。
非常に短時間ではあったけれど、内容の濃いセミナーになったかと思います。会場のオーディエンスの皆さんと、『まずは小さなプロジェクトから』という分かりやすい方向性が共有できた瞬間でもありました。さて、来年の3月、このセミナーのなかからいくつの「まちしごと」が生まれてくるのか、今から楽しみでなりません。